先進技術を活用した鉄道軌道保守サービスでイノベーションを起こす川崎重工

概要

100年以上にわたり重工業製品を企画・製造してきた川崎重工業株式会社(KHI)が、安全でコスト削減と業務効率を向上させる軌道保守サービスを、米国の鉄道会社向けに提供するという新たな挑戦をしています。ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた先進的なプロダクトで、KHIはイノベーションの新たな世界を切り開いています。

スコープ

プロダクト戦略、ソリューション・オーナーシップ、ソフトウェア・エンジニアリング、プラットフォーム・エンジニアリング、AI・機械学習、データ・エンジニアリング、DevOps、アジャイル・トレーニング

テクノロジー

Microsoft Azure, Microsoft Sphere, Databricks, NVIDIA Jetson Orin, NVIDIA cuOpt

米国鉄道網の規模は世界最大級であり、軌道の全長は約160,000マイル(約257,000キロ)に及びます。その軌道が約380万平方マイル(約612万平方キロ)の地表に広がっており、その保守の困難さは他に類を見ません。その困難さが年間1,000件以上の鉄道事故につながっており、貨物や乗客の輸送に影響を与えています。

既に北米で鉄道車両製造を行っていることから、米国の鉄道会社向けの製品・サービス群に軌道保守サービスを新たに加えることに、KHIは大きなチャンスを見出しました。

昔から軌道点検は人手のかかる作業でした。点検中は貨物を運べない、専用の試験車を走らせる必要がある等のため、貨物運送のオペレーションの妨げとなります。目視で線路や枕木、締結装置、バラストの点検を行う際、小さくても重大な異常個所に気付けるよう、点検担当者は良く訓練されていなければならず、膨大な量を点検することは困難です。また、安全上の規制に従い、点検結果を詳細に文書として記録しなければなりません。一言でいえば、昔ながらの軌道点検は非効率な手作業で行われていると言えます。

KHIも鉄道業界が抱えるこの問題を解決することに取り組んでいました。ハードウェア製品はデジタル製品やサービスのようには規模拡大が容易ではなく、納品できる数に限界がありスケールする際に問題になります。軌道に関するテクノロジーを拡張し、同時にそのテクノロジーを開発するための能力も拡大することは、KHIとその顧客企業にとって新しい可能性を拓くことにつながります。

KHIは自社のクラウド基盤のソフトウェアエンジニアリングの能力を増強したいと考えており、自社のハードウェアの専門性を活かせるパートナー企業を必要としていました。鉄道部門でデジタル改革を起こし、さらなる価値を顧客に提供できるようになれば、その成功をKHIの他事業においても再現できるかもしれません。

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デジタルの未来の開拓者であることの利点

統合されたソフトウェアを開発するための第一歩として、KHIはまずAIと機械学習を活用したデジタルプラットフォームと、カメラ、レーザー、ジャイロセンサーなどの軌道点検のためのIoTデバイスのインターフェースを開発しました。プラットフォームは最新のクラウドコンピューティングを用いて線路のデータを収集・分析し、効果的にAIと機械学習モデルの改善を自動的に行います。

この自動化した軌道保守サービスのプラットフォームを導入した鉄道会社は、安全性を向上させながら、効率化により点検と保守の費用を削減できます。自動化によるセンサーデータを現場の鉄道スタッフの専門知識と組み合わせることによって、価値ある人的資本がなおざりになることもありません。

この鉄道データプラットフォームはKHIにとって、既存のハードウェア事業と並ぶ新たな収益源の可能性を体現するものです。KHIのロボットや水素などの他部門でもこのデジタル戦略が実行されれば、事業を横断した成長の可能性はさらに広がります。

この取り組みをサポートするため、KHIは社内に新たなアジャイル・エンジニアリングチームを組成しました。チームの不断の努力によりいまや12~15名のメンバーを擁し、本番で使用できるソフトウェアを開発しています。KHIはこのチームを得たことで、デジタル・ファーストの未来に向けてより柔軟な強さを手にするようになります。

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インテリジェントな製品群がイノベーションを起こす

KHIはいかにしてたった数年でこの段階にまで到達できたのでしょうか? まず初めに、鍵となる役割を担うKHIの社員がシアトルのSlalom Build Centerを訪ねました。彼らはSlalomと共に「ディスカバリー」と呼ばれるプロダクト構想フェーズを実施し、実現可能なスコープの中で、顧客である鉄道会社やKHIの事業にとっての価値を生み出せるプロダクトのビジョンを決定しました。

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当時KHIは保守が必要な軌道変位の異常を、センサーで検知する自社の軌道監視システムに手ごたえを感じていました。このシステムは現在すでに商用化されていますが、全体戦略の中で重要な概念を実証するものでした。

日本と米国においてそのプラットフォームの新たな構成要素をアジャイルで開発する取り組みが、KHIとSlalomのメンバー間で始まりました。ハードウェアの専門家とソフトウェアの専門家が協働して戦略的な問題や技術的な問題を解決していく中で、双方向での知識移管が行われ、お互いに対する尊敬が育まれていきました。

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次の構成要素となる締結装置監視システムは、コンピュータービジョンを活用し、犬釘やクリップなど、線路を枕木に固定する締結装置を点検するものです。エッジ端末で実行されるソフトウェアが優れた画像認識を行い、そのデータを鉄道会社の規則や連邦鉄道局(FRA)の規制に照らし合わせて不良個所にフラグを立てます。次にそのデータをクラウドに送って不良個所のリストを作り、顧客が軌道のコンディションを把握できるようにします。

もう一つの画期的な構成要素であるMaintenance Advisorは、AIや機械学習を活用して修繕のニーズを1か所にまとめ、コストと鉄道網への影響を最小限に抑えながら、保守作業を行うルートの計画を立てます。ここでMaintenance Advisorの力が存分に発揮され、山のようなデータを具体的なアクションにつながる指示に変えることで、最小限の労力で最大の効果を出せる修理計画を立案します。

製造業のモダン化を全力で目指す

KHIとSlalom Buildのコラボレーションにおいて、文化や言語の違いを乗り越える難しさはありましたが、共に働き、お互いから学べたことは両社にとって非常に大きな価値がありました。KHIのエンジニアは、自らにとっても会社にとっても、スキルを増やし、アジャイルの手法を自社の文化に合わせて導入するための非常に重要な機会であると認識していました。

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KHIの顧客である鉄道会社がこれらの軌道保守サービスを現場でテストし、パフォーマンスとコスト削減にどのように貢献するかを検証するにつれて、これらの初期的な取り組みをKHIが今後どのように発展させるべきかが明らかになっていきます。

世界トップクラスのハードウェアを価値あるソフトウェア・ソリューションで拡張するスキルを備えたことで、KHIは市場の競争に打ち勝つ成功への道を着実に歩んでいます。

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